『九つの殺人メルヘン』 十七冊数

九つの殺人メルヘン (光文社文庫)

九つの殺人メルヘン (光文社文庫)

 日本酒バーを舞台に、グリム童話の新解釈になぞられて次々と事件が解決される連作短編集。発想自体は大変面白く、解釈自体も一部微妙なものがあるものの、「狼と七匹の子ヤギの秘密」や「ブレーメンの音楽隊秘密」を始めとして概ね面白い。ただ、肝心の事件はいまひとつぱっとせず、印象に残りそうな内容は「長靴をはいた猫の秘密」のトリックくらいか。加えて、だんだんと童話と事件の絡み方が適当になっているような……。
 また、個々の事件が語られる前の前フリとしてさまざまなジャンルの薀蓄が語られる。お酒については非常に興味深く思ったのだが、殊に音楽、クイズ番組、CMについての昔話(語っている人々は揃って四十二歳)を語られてもさっぱりわからない。クレイジーキャッツとか時代が違いますから……。悪いとは言わないが、読者の年代によっては置いてけぼりになりかねないのはどうかと。