『さみしさの周波数』 五冊目

さみしさの周波数 (角川スニーカー文庫)

さみしさの周波数 (角川スニーカー文庫)

 短編の名手・乙一の短編集(と本の裏のあおりに書いてある)。
 看板に偽りなく、どの作品もよくまとまったいい話。デビュー作の「夏と花火と私の死体」は微妙だったが、これは良作だった。ジャンルはレーベルでラノベとしたが、内容的にはジュブナイルないし青春小説とするのが適当かな。
 四作中ベストは「手を握る泥棒の話」。金に困った男が、ちょっとした金を盗むべく旅館の壁に穴を開けた。ところが、男がつかんだものはトンデモナイものだった……というお話。
 ユニークな設定が面白く、展開もコミカルかつ心に染み入るもの。さらには、驚くべき結末が待ち構えている上、ラストシーンは晴れやかな気持ちにしてくれるという、至れり尽くせりの作品です。映像化しているらしいんで、一度見てみたいかな。
 また、時雨沢恵一に次ぐあとがき書きとして評価されているだけあって、あとがきも面白かった。今回は菓子パンが主食で体の三分の一が菓子パンでできていただとか、PCの壁紙を菓子パンの画像にし、それを見た友人に「狂っている」と言われたというところには大爆笑。あまりのインパクトに、「失はれた物語」を読んでしんみりした心がいい感じにシェイクされてしまった。